おいらはハリマモチ。もち米だ。
今年はおいらを使ったおもちを販売するってんで、生い立ちを紹介しに来たぞ。
去年はいとこのヒメノモチが、穂を出すのが早すぎたんで、スズメに食われまくったそうで、今年は穂が遅めのおいらの出番となった。
このあたりじゃ、主食用の米はゆっくり穂がでるヒノヒカリが主流だからな、
おれらもち米も歩調を合わせないと、ってわけよ。
一応、郷には入れば郷に従え、だな。
で、おいらは今年はこの田んぼに住むことになった。
レンゲがわさわさだ。なんでも、このレンゲで草を抑えるらしいぞ。
え?この農家は合鴨農法してるんじゃなかったのか、てか?
それがあれだ、どうも園長のオヤジが腰をいわして、
あんまりたくさんの田んぼを合鴨でするのはしんどいとか、ボヤいてたらしいぞ。
それで他の農法も試してみようってんで、レンゲ農法っちゅうやつが出てきたわけよ。
もう就農して15年を越えるらしいし、体もかなりガタきてんじゃねぇか?
レンゲ農法ってのは何だ、って?
あれだ、田植え前にレンゲをすき込んで水を入れるんだ。そしたら、レンゲが腐るだろ。
その時に「有機酸」っちゅうのが出てきて、発芽したばかりの雑草の芽がやられるらしいわ。
レンゲが腐るときのニオイはすんげぇぞ、田んぼが真っ赤になって、
そりゃあ鼻がひんまがるってもんよ。
だからあんまり人の家に近い田んぼでは迷惑を考えないといけねぇな。
そんな中に暮らすって悲惨だな、って?いやぁ、それはさすがにおいらも逃げ出すぞ。
でも、そこはちゃんと考えてあって、おいらは苗になってからこの田んぼに引っ越してくるから
(人間の言う、田植えってやつだな)、すんげぇ匂いのころには根っこがちゃんと土の中に
潜り込んでて、ほとんど影響ないってわけよ。人間もなかなか賢いもんだ。
田植えまではこの苗代っちゅうベッドで過ごしたな。
平らにした地面に苗箱っていうおいらの仲間の種がいっぱいまかれた箱を並べていくんよ。
泥田で中腰のなかなかきっつい仕事らしいぞ。おいらは土の中でぬくぬくらくちんだけどよ。
この後のビールだけが楽しみだって園長がゆうてたけど、田んぼの水が一番うめぇのにな。
芽が出たおいらだ。もうぴっちぴちでかわいいだろう?
なんだか暗いけど、それは上にラブシートっていう、いかがわしい名前の布団がかけてるからよ。
これが無いと、スズメどもがおいらを食べにくるってわけよ。もう上げ膳据え膳でありがたいことよ。
それからこの時期はな、朝晩は寒いし、昼間は暑いしで、なかなか赤ちゃんのおいらにはキビしい環境でよ。
このラブシートも保温になるんだけど、その上からシルバーシートっていう布団もかけてもらって、ぬくぬくよ。
ただ、5月も半ばになると日中はけっこう暑くなる時期があるけど、そんな時はシルバーシートをめくってもらわねぇと、この中は暑すぎておいらたち、焼けちゃうこともあるんでお。
そんなこったで、人間は一日に何回も苗代に来ては、シートをかけたりめくったりしてくれるってわけよ。
ところがだ、うちの園長とその奥さんはけっこうボンヤリしてるところがあってな、
毎年シートをめくり忘れて、おいらたちの仲間が一部焼けかけになるんよ。
残酷過ぎてその写真は出せねぇな・・・今でも涙が出るぜ。
さて、もう少し大きくなったら、いよいよ田んぼへ引越しだ。
おっと、その前に、田んぼのベッドメーキングもしっかりやってもらわねぇとな。
こいつは畔塗りって作業だ。畔(アゼ)をしっかり塗り固めて、
田んぼにためた水が漏れないようにするってわけよ。
こいつをやんねぇと、田んぼによっちゃ、今日入れた水が
明日にはなくなっちまうこともあるそうだから、なかなか大事だな。
モグラやヘビどもが畔に穴をあけちまうんだな。
まぁあいつらもただそこに住んでるだけだから、悪気があるわけじゃねぇ。
こっちはこっちで住みやすいようにしてもらうだけだな。
この作業も昔はクワっちゅう道具でコネコネと人力でやっていたらしいぞ。
そりゃあ大変なもんだ。今は人間も楽ができるようになったもんだな。
ただ、こういう便利な道具はなかなかゼニがいっから、その分稼いでもらわねぇと。
さて、いよいよ田植えだ。
え?なげぇってか?そうだな、確かになげぇな。続きは別にすっかな。
ま、ここまで読んでくれてありがとうよ!
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